祖父の正体は…

婆を溺愛したという祖父。

この人、一体何処の誰なのか。

私が生まれた時、すでに他界していて逢った事はない。

親戚の存在は、実は小3になるまで知らなかった。

家出した婆が親父と出会い、駆け落ちして一緒になるまで、さらに十年の月日が罹る。

その辺りを誤魔化す婆。

だけど私は伯父と叔母から事情を聴取している。

婆が家出をし、実家に戻るのが二十年後だ。

つまり私が小3の時である。

このわけのわからない一連のトラブルは、すべては祖母の病死から始まっている。

身重の祖母が、おかしくなりはじめたのが、伯父と婆の記憶では父方の身内が着た頃だという。

その日、何があったかは不明だが、祖母は祖父の正体を知ったのではないかというのだ。

また、伯父の話によれば、祖父は一切学校に通っておらず、何処で習得したのかわからない学識と語学力。

そして、戸籍上の地名は、実在しないという話。

では、何処の誰で、どういった経緯で結婚に至ったのか。

それも全くの謎だという。

祖母には、親が決めた許嫁が居た。

結婚の一週間前、突然一方的に相手の都合で破談になり、突如現れた相手が美丈夫の祖父であったという。

まるで初めから決まっていたかのようで、トントン拍子に決まって、所帯を持つに行ったったと聞かされている。

その祖父が持ち歩いていた金の懐中時計と定規。

最近になって、その意味を知ったのだけど…フリーメイソンのシンボルだ。でも、祖父が亡くなり、それらの持ち物をすべて現金に換えたのは伯母だ。

なので今更探りようがないのだが。

もしも、このような事実を身重の祖母が知ったとしたら…おかしくなっても仕方がないだろう。

そして、オリエ叔母さんが生まれ、数日後に風呂場で生きたえた姿を目撃する。

現状だけだと本当に病死だったのか、婆と伯父が疑ったとしてもおかしくはない。

当時の事を4~5歳だった婆も覚えているという。

そんな祖父は、語学堪能で才覚があり、美丈夫でありながら再婚はしなかった。

他所に女性が居たかどうかは分からないという。

その祖父も60代を少し過ぎた頃、病死した。

婆が家出中の事だったらしい。

祖父はどこでどんな教育を受けたのか、伯父にもわからないというが、それだけの才覚と外見と貿易商という仕事側から考えて、考えられるのは特別な訓練を受けたスパイということだ。

こんな話、婆やナオコにしたって理解は出来ないだろう。

そもそも「そんな小説みたいな話、あるわけがない」というだろう。

では、戸籍も名前も持たない人物って、何だというのだろうか。

その答えを婆も持ってはいない。

でも、祖母が病死であれ、自殺であれ…祖父の正体を知っておかしくなった事は事実だ。

それが伯父と婆の人生を変えてしまう。

そして婆は親父に出会う事も無かったのだ。